ダイエット中の聡子さん、夜の空腹がどうしても
苦痛ということで、今回はその対処法です。
聡子は、重い足取りで玄関のドアを開けた。
長い一日だった。
パソコンの画面と向き合い、鳴りやまない
電話に対応し、心も体もくたくた。
お腹が「ぐぅ」と鳴って、
今すぐ何か食べたい衝動に駆られた。
吸い寄せられるように冷蔵庫の前に立つ。
ドアを開けると、昨日の残りの唐揚げや、
ご褒美に買っておいたチョコレートケーキが
目に飛び込んできた。「だめ、だめよ…」
聡子は自分に言い聞かせたが、手は伸びそうになる。
「まずは、これだわ。」聡子は洗面所へ向かい、
歯ブラシを手に取った。ミントの香りが口いっぱいに広がる。
シャカシャカと丁寧に歯を磨くと、
不思議と食欲が少しだけ遠のいていく気がした。
それでも、まだお腹の虫は静まらない。
「次は、温かい飲み物ね。」聡子はやかんに水を入れ、
火にかけた。カモミールの優しい香りがふわりと立ち上る。
お気に入りのマグカップでゆっくりとハーブティーを飲むと、
体の芯からじんわりと温まってきた。
「よし、気分転換だわ。」聡子はリビングの床に
ヨガマットを敷き、ゆっくりと手足を伸ばした。
凝り固まった肩や背中がほぐれていくのを感じる。
深い呼吸を繰り返すうちに、食べ物に向いていた意識が、
自分の体へと戻ってきた。
「うーん、でも、やっぱり何か口にしたい…。」
そんな時のために、聡子にはとっておきの味方がいた。
キッチンの棚の奥から、小さな袋を取り出す。
中身は、噛みごたえのあるスルメだ。
聡子は、一本だけスルメを取り出し、ゆっくり、
ゆっくりと噛みしめた。噛めば噛むほど、
旨味がじわじわと広がる。
ほんの少しなのに、不思議と満足感が湧いてきた。
「これなら、大丈夫。」
空腹の波を乗り越えた聡子は、穏やかな気持ちでベッドに入った。
我慢するだけじゃない、自分を上手にいたわる方法を見つけた夜。
それは、小さな、でも確かな自信になった。
翌朝、聡子はいつもより少しだけ体が軽く感じられた。
鏡に映る自分の顔も、心なしかすっきりしている。
「今日も一日、頑張れそう。」聡子はにっこりと微笑んだ。
小さな工夫と自分への優しさが、
聡子の毎日を少しずつ変えていく。
疲れた夜を乗り越えるたびに、彼女はもっと強く、
しなやかになっていくのだった。